東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1699号 判決
被控訴人は、一、右債権譲渡は訴訟行為をなさしめることを主たる目的とする信託行為であるから信託法第十一条に違反し、また二、控訴人は他人の権利を譲受けて訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業として本件債権を譲受けたものであるから弁護士法第七十三条に違反し、いずれの点からしても本件債権の譲渡は無効であると抗争するので、この点につき審按する。
前顕甲第一ないし第三号証の各一、原審における控訴人本人尋問の結果によりその成立を認むべき甲第四号証の一ないし十六、原審における被控訴会社代表者松本辰雄の尋問の結果によりその成立を推認し得る乙第一ないし第十六号証、第十七号証の一、二、原審及び当審証人古山貞三(当審は第一、二回)、同高窪良誠、当審証人高橋辰蔵、同鎌苅実の各証言並びに原審及び当審における控訴人本人、原審における控訴会社代表者松本辰雄の各尋問の結果と、弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人はもと被控訴会社に雇われ営業その他外交の事務等に従事していたところ、同会社の内部に派閥の軋轢があり、且つ営業不振のため昭和二十六年九月頃退社するの已むなきに至つたものであるが、当時被控訴会社の資材購入先に対する買掛債務も滞り勝ちとなり、各債権者も焦慮していた折柄であり、その頃の被控訴会社の代表取締役職務代行者古山貞三の了解もあつたので、同年十月上旬頃控訴人は各債権者を歴訪し、会社は目下整理中で何時支払われるか不明であると告げて、本件各債権を含め被控訴会社に対する計十数口、金額四十数万円に上る売掛代金債権を、各その六割ないし七割掛(四割ないし三割引)の金額の対価を支払つて譲受け、その後数日を出でずして本件債権につき、支払命令の申立をしたこと(他の譲受債権についても支払命令の申請をしていることは控訴人の主張自体に徴しても明らかである)を認めることができる。右認定を覆すに足る証拠はない。
右認定の事実に照らして考えるに、(一)本件各債権の譲渡人たる前示訴外人等は、いずれも債務者たる被控訴会社の支払能力を考慮し、各債権額の六割ないし七割掛の対価を得て、名実共に控訴人に対してその債権を譲渡したものであることは明らかであつて、たとえ譲受人たる控訴人において爾後数日を出でずして、訴訟的手段によつて権利の実行をなしたからといつて、右譲渡行為そのものが、訴訟行為をなさしめることを主たる目的としてなされた信託行為であると、断じ得ないこと多言を要しないところである。(二)また右認定の事実から、控訴人において譲受の当初より訴訟手段によつて権利を実行する意図があつたものと推断し得るとしても、この事実並びに被控訴会社に対する右譲受債権の口数及び数額が前示のとおりであつたという、一連の事実を以てしては、未だ控訴人が弁護士法第七十三条にいわゆる「他人の権利を譲受け訴訟調停和解その他の手段によつてその権利の実行をすることを業とする」者であり、且つその業として本件各債権を譲受けたものとは認められない。